吾輩は理学療法士である。

理学療法士が綴る、論文や本、日々の出来事のお話

野生の勘と輪切りのお話

先日、別のセラピストの患者さん(ご婦人)が着ていたTシャツにこう書いてあった。

 

”Today is very good!”

 

 

そして、セラピストが調子どうですか?と尋ねると、

 

”今日、調子良いです!”

 

笑かしにきてるわけではないと思うが(実際笑ってしまった)、
もしかすると、この患者さんは、
直感的にそのTシャツに手を伸ばしたのかもしれない。

 

僕は、家を出る時なんとなく一瞬行動が止まるときがある。
そのまま出てしまうことが多いが、たいていそういう時は忘れ物をしている。

  

僕自身、『直感』とか『なんとなくそう感じる』とかって、
正直スピリチュアルな側面が大きいような気がして
”なにそれ、ただの勘でしょ?”
と思っていた。

 

しかし、そんな僕の考えを変えてくれる本にこの前出会った。
それが、これ。

 

 

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

著 マルコム・グラッドウェル

 

 

この本では、
直感とは、大量のデータを瞬時に処理し、一気に結論に達する脳の働きであり、
決して魔法の力ではないと述べている。

 

 

瞬間的な認識は、胡散臭いと思われがちだ。
できるだけ多くの情報を集め、できるだけ時間をかけて考えたほうが
正しい結論を出せると、信じている人は多いだろう。
ご多分に洩れず、僕もその一人だった。

 

しかし、直感を感じる時は、
目の前の状況をふるい分け、どうでもいい要素は捨てて、
これはという要素に神経を集中させるのだ。

おそらく僕の忘れ物も、無意識の心がその日必要なものをふるいにかけ、
意識の心に知らせたのだと思う。(無意識の僕、無視してごめん)

さらに、この能力は、ごく一部の幸運な人達だけが持つものではなく、
誰もが持っているもので、誰でも鍛えられるんだということだ。

 

ライミング効果

無意識下の力にはいくつか種類があるが、
冒頭の患者さんの場合はたぶんプライミング効果によるものだ。

 

ライミング効果とは、先に得た情報や刺激が行動に影響を与えるという理論。

 

ニューヨークの大学生に対して、
5つの単語から4つ選び短文をつくるという実験が行われた。

ex) him was worried she always → She always worried him.

その際、あるグループには5つ中1つだけ、
『忘れっぽい』『禿げ』『ごま塩』『シワ』など、
高齢者を連想させる言葉を混ぜた。

その後、別室に移動させ、その時の移動時間を測定すると、
高齢者関連の単語グループは歩く速度が遅くなったという結果が出た。

無意識下に高齢者という概念をイメージさせる先行刺激を与えただけで、
高齢者のような歩き方になってしまったのだ。

 

講習会に参加した次の週は、
どうしても学んだ理論や技術を使ってしまいがちなのも、
一種のプライミング効果だろう。

 

しかし、これを逆手に取ることも可能で、
たとえば、自分がどのくらいの時間、どのような環境でいると集中できたのかを
記録していくことで、プライミング効果による暗示がかかり、
その環境、その時間帯には自然と集中できるようになる。

 

輪切りの力

ある心理学者が行った実験で、

患者と医者の40秒の会話を聞いて、
訴えられた医者とそうでない医者を判断できるかというものがあった。

ただし40秒の会話は、単語を聞き分けるのに必要な高周波の音を取り除き、
意味をなさないイントネーション声の抑揚リズムだけを残した。

判定者は、医者の技術レベル、どういう経験や教育をしてきたか、
患者に何を話していたのかさえわからなかったのに、
声の調子、特に威圧感のある声かどうかだけで当てることができたのである。

この実験の裏には、論理的な過程があり、
訴えられるかどうか決定する因子は、
腕の良し悪しやミスを犯す回数には関係なく、
医者から個人的にどんな扱いを受けたか、
つまり、患者を大事にしてるかどうかが問題であり、その態度は声に現れるのだ。

 

この実験からわかることは、ある問題に対して、

どの部分を輪切りにすれば本質をつかむことができるのか

を理解することが、直感を身につける方法なのだ。

 

すなわち、直感を鍛えるためには、

ロジックな思考を地道に積み重ねることに他ならないのだ。

そうすることで、どこを切り取れば、答えに直結するかわかってくる。

直感とは、運でななく、経験や地道な訓練に裏打ちされたものなのだ。

 

そして、これは医療の世界でも、非常に重要視されるべきことだと感じる。

 

たとえば、頭痛で悩まされてる患者さんが、明るいリハ室に入ってきたときに、
頭を押さえるような仕草をしたとする。
頭痛の種類は、片頭痛、緊張性、頸椎性、群発性などがあるが、
光刺激で誘発される(=輪切りにする部分)のは、片頭痛だけである。
もちろん、問診で光や音の刺激で頭痛が強くなるかを聞いても良いだろう。


短い時間での問診・評価をしなければならない僕たちにとっては、
どの部分を輪切りにすればよいのかを知っておかなければならない。

 

直感の天敵は情報過多

何かを判断するとき、情報は多いほど適切な判断を下せると、
みんな当たり前のように思い込んでいる。

実は余計な情報はただ無用なだけでなく、有害でもある

 

ある実験で、心理学者を集めて、
29歳の退役軍人の事例を検討するよう求めた。

第一段階:基本的な情報のみ

第二段階:彼の子ども時代の詳しい情報を追加

第三段階:高校・大学時代の背景の情報を追加

という順序で、各段階ごとに彼についての選択式の質問25項目に答えさせた。

その結果、情報が増えるほど、診断の正確さに対する自信は大幅に高まっていった
しかし全体の正解率はほぼ一定していて、30%程度に留まっていた。

この実験はこう結論づけられている。

情報が増えるほど、
判断の正確さに対する自信は実際と比べて不釣り合いなほど高くなっていった

 

自信を持とうとすればするほど、
情報を追加しすぎて正確な判断が出来なくなる。

 

先日、臨床実習で指導いただいた先生は、こうおっしゃっていた。

 

”核となる仮説を持っていれば、たとえ別の検査が陽性と出たとしても、
無理に結び付けることなく別問題として割り切ることができる

 

すべてを知ろうとすればするほど、
その考えにとらわれて身動きできなくなる。
輪切りによって本質を捉えることで、
情報を無視する勇気も手に入れられるのだ。

 

正しく判断するには、
熟考と直感的な思考のバランスが重要だ。

ロジックに考えたり、信頼できるデータを収集することで、
どの部分を輪切りにすれば本質をつかめるかをストックしておき(=熟考)、
それを使って情報を節約しながら(=直感的な思考)、
結論を導き出すことが大切だと僕は思う。

 

 

ちょっと文章にまとまりがなく、申し訳ないです。
僕の言いたかったことがどのくらい伝わっただろうか…。

 

最後に、直感についてシンプルに現わされている、
棋士 羽生善治氏の言葉で終わりにします。

 

”直感とは、論理的思考が瞬時に行われるようなものだ”

”ロジックを積み重ねる地道な訓練を繰り返すうちに、
直感的に試合の流れや勝敗の分岐点となる勝負どころ、
最終的に辿り着くであろう局面が正確に読めるようになる。”