吾輩は理学療法士である。

理学療法士が綴る、論文や本、日々の出来事のお話

人体展と天才のお話

 

先日、今話題の人体-神秘への挑戦を見に行ってきた。

各臓器の詳しい説明や最新の知見、人と他の動物との臓器の比較などなど、なかなか興味深い内容。人間の脳みそはやっぱりでかかった。てか、ゴリラちっちゃ!チンパンジーよりちっちゃいよ。
ただ、医療に携わってない人にとってはちょっと難しそうな印象。

 

 隣で人体の腸の展示を見てた、絶対パンクロックしてますっていうカップルが、

スプラッター系のホラー映画でこういうのよく見るよねwww”
“それなwww”

みたいな会話をしていた。そんなもんだよね。絨毛の話をされても、びっくりするし。


展示を見ながら声を出している人はたいてい医療従事者であろう(だいぶ偏見)。

“あー腕神経叢ね。そうそう、腕神経叢。”

だからなんだ(笑)。というか、ジョイマンみたいに韻を踏むな。


館内では監視員がいて、写真禁止の注意をしたり展示物に触れないように見ている。
消化器系の展示を見終わって振り返ったとき、目の前で男の監視員が間違いなく自身の局部を引っ張っていた。人体展的に言えば、陰茎である。
私も一応28年間男の子をさせてもらっているので、いちもつの位置ぐらい把握している。人体展にいると、本能的な部分が呼び起こされるのだろうか。人体の神秘である。たぶん、彼の脳みその大きさは、ゴリラと同程度であろう。

 


人体展で一番印象に残ったのは、レオナルドダヴィンチについて書かれていたもの。

 

『周囲が眠りをむさぼっていた暗黒のなかで、あまりにも早く目覚めてしまったレオナルドは、さまざまな分野で先行しすぎていたため、同僚となるべき人々を科学の領域では目覚めさせることができなかった。唯一、直接的な影響を与えることができたのは絵画の世界だけだった』

 

恥ずかしながら、私もレオナルドダヴィンチ=絵描きさんと思っていた。だが、その実は、中世では理解されないほど考え方が先をいっていたという、いわゆる天才だ。
世の中には比類なき才能がある人がいるもんだ、と思った直後、この前読んだ本を思い出した。

その本とは、これ。

天才!成功する人々の法則 著 マルコム・グラッドウェル
(ちなみに原題は、OUTLIERS THE STORY OF SUCCESS)

OUTLIERSとは、統計用語で“外れ値”のこと。つまり、並外れた成功を収めた人々を指している。
この本は、成功している人って生まれ持った才能だけで決まるわけじゃないよって言ってる本。(個人的解釈も大いに含まれています)
その中でも、ほぇ~おもしろいわ~と思ったことを2つ書きたいと思う。

 

エリートスポーツ選手の奇妙な一致

 まず、この図


これは、カナダのアイスホッケーメジャージュニアチーム登録選手の誕生月である。


 こっちは、チェコのサッカーナショナルジュニアチーム登録選手の誕生月。

明らかに、1~4月に集中してることがわかる。割合でいうと、70%を越える。
なぜこのような偏りが生まれるかっていうと簡単で、カナダやチェコでは、年齢を区切るのを「1月1日」に設定してるから。
つまり、同じ学年でも1月生まれと12月生まれだと体格が違うから、子どもの頃は特にパフォーマンスに差が出やすい。そうすると、1月生まれの子の方が選抜選手になれる。選抜選手は周りの環境に恵まれて、質の良い練習ができる。パフォーマンス上がりまくり。エリート街道まっしぐらで、OUTLIERSの出来上がりという仕組み。こういう子たちがプロになるので、NHL(北米プロアイスホッケーリーグ)でも同じ結果。
ちなみに、日本のプロ野球とかJリーグは、やっぱり4~6月が多いらしい。

成功している人は特別な機会を与えられる可能性が高く、さらに成功しちゃう。
最初はほんのわずかな優位性だったのが、どんどん累積していって、その有利な立場がまた次のチャンスを呼び込んでいくっていうね。おもしろいなー。

 

魔法の数字

 

心理学者の間では、ここ30年、こんな議論が盛んになっている。

『生まれつきの才能はあるのか?』

答えは、残念ながらイエス。1月生まれのアイスホッケー選手が、全員プロになれるわけじゃないからね。

でも、当たり前だけど、成功には才能プラス訓練が絶対的に必要。
心理学者が成功している人間を調べれば調べるほど、持って生まれた才能よりも、訓練の役割の大きさが浮き彫りになってくるらしい。

音楽学校のバイオリニストに、心理学者がこんな質問をした。

はじめてバイオリンを手にしたときから、これまで何時間、練習してきましたか?

これは、各年齢における1週間の練習時間のグラフ。

:プロになれそうもなく音楽教師を目指す学生グループ
オレンジ優れているという評価の学生グループ
グレー世界的なソリストになれる可能性をもつ学生グループ

見てわかるように、年を重ねるにつれて、どんどん練習時間に差が出ている。

20歳までの総練習時間は、

プロになれそうもなく音楽教師を目指す学生グループ:4000時間
優れているという評価の学生グループ:8000時間
世界的なソリストになれる可能性をもつ学生グループ:1万時間

また、プロとアマチュアのピアニストに同じ質問をしたら、20歳までの総練習時間は、

マチュア2000時間
プロ:1万時間

専門家たちの誰もが同じ意見を言う。

“世界に通用する人間に共通する『魔法の数字』が存在する”

すなわち、1万時間である。

1万時間より短い時間で、真に世界的なレベルに達した例を見つけた調査はない。
まるで脳がそれだけの時間を必要としているかのように。

そして、注目すべきは、この調査において、『生まれつきの天才』がいなかったこと。
仲間が黙々と練習に励む、その何分の1かの時間で、楽々とトップの座を楽しむような音楽家はいなかった
逆に、他の誰よりも練習するがトップランクに入れない『ガリ勉屋』もいなかった

この『魔法の数字』が調査でわかったことによって、1年の後半に生まれた、アイスホッケーやサッカーの神童がいない根拠がさらに強固なものとなってくる。

1年の後半に生まれた神童は、8歳のとき、体が小さいために代表メンバーになれない。だからより多くの練習機会が得られない。より多くの練習機会が得られなければ、プロのホッケーチームがスカウトを始める前に、合計時間が1万時間に達する見込みがない。1万時間の練習を積んでいなければ、トップレベルで戦うために必要なスキルが身につかない。生まれ持った才能を持っていても、埋もれてしまう。

つまり、プロアイスホッケー選手を例にとると、1年の前半に生まれるという「好機」によって、「1万時間」をかけて努力することが出来たということだ。

1流とそうじゃない人を分けるもの、それは圧倒的な努力だ。
ときどき熱心に取り組んできた、そんな甘いものではなく、他を圧倒するような努力である。

日本プロ野球界の至宝、王貞治氏の言葉もこれに通ずる真理がある。

 

“努力は必ず報われる。報われない努力があるとすれば、それはまだ努力とはいえない”

 

この本では、成功者は「好機」に恵まれることで、「1万時間」の努力ができる環境になったということだが、

たとえ1月生まれではなかったとしても、1流とのボーダーラインである魔法の数字を知ることができた私たちは、自らの手で運命をこじあけられそうだと感じないだろうか?

結論としては、
OUTLIERSっていうのは、最初からOUTLIERSではないっていうこと。
成功者たりえるには、それ相応の脈絡があるのだ。


けっこう個人的な解釈なので、ぜひ一読してほしい。
これ以外にも、成功者の文化的な因子とかも書かれててけっこう面白いよ。